ライン・ワール・マースの狭間から、草の如し徒然の観察八景。 政ごと/商いごと/言の葉ごと/遊びごと。

Nature 雑草 フローラ/ファウナ

Camellia & Dogwood  椿と花水木

花水木こと Flowering dogwood 白と赤の色違い植栽園芸種。
総苞4枚の天辺がまだくっ付いている。蕾は総苞が風呂敷状に包み込む形で育つ。 
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川の流れる向うに文字が見える。川の手前この位置/角度からシャッターを切った人は多いだろう。4月27日である。ヤマザクラ系の桜が殆ど散り葉桜になり、サトザクラ系がまだ盛りの頃だった。向うの大の文字が見える山は如意ヶ岳。ダイモンジまたはミギダイモンジと言われ、京の大文字の送り火の元祖である。上手の南側・賀茂川からずっと、鯉のぼりと背後の東山連山など気ままに撮りながら歩いている途中だった。

立派な民家に思われる屋根並び手前に、黄色と桃色との木々が目立って美しい。何の木だろう? 直ぐに赤のハナミズキと黄のレンギョウと思った。この場面を気に入り、時々参加している樹木サイトに「ハナミズキ談義」に画像upして紹介。この風景が公開されるや否や、ハッと逡巡した。桃色はハナミズキでなく、サトザクラかもしれない。いやはや、そうに違いないと言う後悔に襲われる。これはドジなことをしたと、「近日、機会を作り対岸に渡り、確認する」訂正文を直ぐに続けて書き込んだのです。皆さんの推測はいかが? 

Camellia & Dogwood はジョン万次郎がうまれる子供たちのために考えた名前だ。これは津本陽の小説の話だ。この二語の意訳的意味は「椿と花水木」。女の子ならばカメリア、男の子ならドッグウッドと名付けようと言う筋書きである。

逐語訳的もしくは分類学的に片仮名に書きなおすと「ツバキ属とミズキ属」に成ろう。ツバキもミズキも日本語名として、最近しばしばユニセックスな男女いずれにも聞く名前である。横文字そのままのカメリアと言う女の子はUS中に沢山いるだろう。だが、ドッグウッドはどうだろうか。ドッグを(動物の)イヌと解すると「犬木」と解釈される。そんな男の子の名前はまず聞かない。

DSC_0521.jpg

Dogwoodの語源、特にdogにイヌ科イヌ属の飼い犬以外の説がある。生物名の語源に必ずと言って良いほど諸説がある。あれこれ説をとくことが学者やマニアの余興や楽しみになっているのだ。大抵は歴史的な考証や証拠に欠ける戯れ言である。なぜなら、生物の科学的探究は言語学と`ほぼ`無関係と言えるから…。ここでは日本語「往ぬ→いぬる→去ぬ」と絡むことや、「犬畜生」と言う一段劣ったものと言う観念を挙げたい。それらはウエブスター辞書に所収される、動物である飼い犬=dogの6~7番の意味と共通している。

ブナに劣るブナと言う意味でイヌブナがある。イヌガシ・イヌマキ・イヌツゲなど近似例に事欠かない。小サイズとか、小自生域とか、主要種にくらべ二次的と言う場合が多く、必ずしもネガティブでない。Dog綴りにも、そのような意味が隠されている。「犬の分際で…」とか「犬野郎」と言う発想はインターナショナル、と言うかオオカミあたりから囲いに採りいれられ、飼育化された犬が人間の友達と言う積極面と共に、消極面として負わねばならなかった宿命である。

Dogwood Corrage 01

ドッグウッドと言う樹種仲間は一般に小木だ。ただのドッグウッド、と言うか標準的なのは欧州で「赤い」が付く。小枝が濃い赤味を帯びるので、赤が種名になっている。一つの花はこんもり傘型の直径4~5㎝に見えるが、実は細い花びら十字形4枚と雄蕊4本、雌蕊一本を持つ小さな花が沢山集まる構成になっている。言わば集合花で、それは黒い実の付き方によって理解できるでしょう。

1827~1898年のこの期間、日本唯一英会話達者な人物がジョン・万次郎だそうだ。鎖国期間に海の外に勉学に行けない。彼は魚業中に嵐に会い漂流するうちにアメリカ船に救助された。年上仲間はハワイに滞在したが、14才彼のみはアメリカに渡った。10年間の生活・勉学後の1851年に帰国した。若い時のUS生活と努力/才能ゆえに、自在に米語を話せるようになっていたと言う。私にはそれが納得できる。

帰国時24才だから、滞米中の結婚が予想される。太平洋を渡った``例外者``を扱った著作は多くある。しかし黒船来航時代の唯一の米語会話の能力者とその名前が一般に広く知られるのは1986年以後らしい。戦前著作本(中濱東一郎編著)をupgradeした井伏鱒二による漂流記がベストセラーになったためだ。わづか四半世紀前に過ぎず、意外に思う。10年後の1996年に、津本陽版が出ている。彼は予想される所帯持ちを小説化しているのだ。万次郎は未婚だったが、話作りの展開は面白くなろう。

Cornus mas Corrage 003-1

ミズキを水の木と書くのは幹を切ると水が出てくるからだ。このミズキを代表とする仲間は多く、日本でミズキ属と一括している。このグループはさらに幾つかに仕切られる。中心になるミズキ亜属は北半球あちこちに散らばっている。シラタマミズキと言うのは白い実をつける、たぶんこの下位グループの園芸種であろう。

数種しか無い小グループもある。例えば1㎝ほどの黄色花をドーッと咲かせるのはサンシュユ亜属。経済圏並びに似た日欧米中のそれぞれ兄弟種が存在する。ミズキの白い花と、その枝を水平っぽい上方にのばす枝振りと全く異なる。セイヨウサンシュ果実は濃い赤色に熟し、試食すると甘みがある。普通は小鳥たちの好物になる。なおセイヨウサンシュユの成分が犬の皮膚病に使われたと言うDogwood説もあるが、確証がない。

「カメリアとドッグウッド」と言う組み合わせを津本が考えたのか、それとも戦前の伝記著者にそんな逸話が記述されているのか不明である。カメリア属が欧州にお目見えするのは1820年代で、出島の商官医フィリップ・フォン・ジーボルトの送り出した日本フローラの苗や種子の一つだった。

それは赤い花のヤブツバキで、最初の荷はちょっとした間違いでロッテルダムに行かずベルギー・アントヴェルペン港に陸揚げされた。初め大学町レ―ヴェンで馴化育成された。恐らく圃場中心域フェントがその後のヤブツバキ園芸種の展開に貢献したと思われる。

これらがUK圃場フェイッチ家系やオランダ系商会によって合衆国東部(ニューアムステルダム=ニューヨークやワシントン)に移植され、椿ことカメリア文化を形成していった。ツバキ園芸界はミズキより遙かに大きく広い。ヤブツバキを基礎にして、大グループから小グループへの下位系統と、それらの間の互いの交雑グループがある。このツバキ人気がジョン・万次郎の滞米中に進行していた。作家が取り上げる格好の素材…。

そして男の子用の樹木名ドッグウッドは一つのミズキ属の種(シュ)を指す。自生地は合衆国の西側1/3に渡り、一般にflowering dogwoodと呼ばれる。他のミズキ属に比べ、花サイズや色が目立つからであろう。これを訳して「花水木」。ミズキ属の小さな亜属に属し、日本自生種の「山法師」と極めて近い。従って別名をアメリカヤマボウシと言う。逆に山法師をJapanses flowering dogwoodと呼ぶのは理屈にかなう。

Benthamidia (Cornus) kousa Corrage 01

白い頭巾をかぶる法師(修業僧)たちは山の尾根伝いにお経を唱えながら歩く。その様子を白い花(実の花びらは中心にあって小さい)が連続して並ぶ開花盛時に例えたそうである。白い列が階段状に見える。その一つ一つをテーブルトップにみたてて、Table dogwoodと言われたりする。左下の赤い果実はイチゴのような集合果で、柔らかくトロット甘い。丹念に集めてジャムやジュースに出来る筈だ。

Benthamidia (Cornus) frolida Corrage 03

トップ画像の白赤2つのハナミズキの天辺に集まる総苞が四方に開くと、やや緑がかった個体の上のような状態になる。総苞片の頂が青紫に見える。この部分が頑丈にくっ付いていた。右奥手に見える蕾では総苞4つのタガが外れ、これから総苞片を広げようとする場面である。中央に本当の花の蕾群が見える。蕾が育つと、右下の画像のように小さな花が4枚の花弁を開き反り返る。4本の雄蕊がやや四方に傾きながら突き出ている。1~2本の雄蕊を欠いた花個体も散見する。

総苞片の`色彩計画`はかなりのヴァリエーションがあるようだ。赤白間のトーンが揃っている。また2色まじりも見られる。花と言うか、華やかなプレゼンテーション故のFloweringと言う形容詞が付いているわけだ。日本の山法師も迫力ある開花を演出するが、こんな``破廉恥``風では無い。

欧州の標準ドッグウッドでないが、米国を代表するドッグウッドと言うのが十分に理解される。ジョン万次郎は4~5月のドッグウッドを始めて見た日本人である。津本が架空の米国人妻と万次郎をどのようにハナミズキ世界に置いたのか、私は知らない。赤ん坊出生に備える目的だけに、Dogwoodを見出しにすまい。本物の万次郎は通詞として、US事情通として、あるいは捕鯨船や当時の船舶専門家として、日米外交の裏方を務めたが、生前中にハナミズキは日本に渡来しなかった。

没後17年の大正4年に、東京に苗木が送られた。それは東京市長・尾崎行雄が1912年にワシントンに桜を寄贈した返礼であると言う。寒いニューイングランド地方だから、寒さに強いソメイヨシノの選択に気を使ったのではないだろうか。同時に、桜をして日韓併合後のアジア一の強国のプレゼンスに思われる。

こうして合衆国の華麗なドッグウッドが日本に根付くようになる。昭和晩期に歌や映画がつくられたらしい。あたかも日本ヤマボウシの兄弟姉妹のようにハナミズキの名が、ドッグウッドの代わりに、広くなじまれるようになった。だからUS東部出身の舶来樹木と知る人は少ない。

Benthamidia (Cornus) frolida en Acasia Corrage 06

様々な園芸種が出現して、日本あらゆるところに植栽されている。平家ならずば人に非ずと言う感じがしないでもない。理由は白赤と言う紅白が揃い、左様な愛でたい樹木で、なおかつ和名の響きがよいこと。おまけに温暖な気候がそれを助けている。欧州ではどうだろう? 残念ながら、そこではこれらの条件が揃わない。

ハナミズキと言う実態と語感とは完全に「帰化」したと言えるだろう。園芸植栽種が日本の山野に野生化したと言う文脈でない。昭和初期のジャズが着床したように…と言うことだ。アメリカン・フットボールと応援バトンガールズの日本チームが先ごろドイツ連邦ノルトラインウェストファーレン州のドルトムント市を訪れている。へ―ッと驚いた。最後まで試合を見なかったのだが、彼らはドイツチームに勝ったのではないか。大正4年に太平洋を渡ってきたハナミズキは2012年5月のアメリカン・フットボールの日本チームのような塩梅だったと思われる。バトンとコスティームにつく白や赤のキラキラする輝きを花水木に見立てるに過ぎないけれど…、
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ken minatoya

Author:ken minatoya
Victor Westhoff(1916-2001)碑文Hij observeertからのHNを本名と苗字に先立つ屋号に変更。ウエストホフは生物フローラの相互生息環境を丹念に観察したBiotop概念の先駆者。ザザーッとフィールドを歩きつつ、こぼれ見える外史/雑人/雑草の風景

日本語→英語自動翻訳【星条旗】
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