ライン・ワール・マースの狭間から、草の如し徒然の観察八景。 政ごと/商いごと/言の葉ごと/遊びごと。

Ordinary People 雑人雑名

15世紀欧州の巨匠はフラーンデレンの人

21世紀二人の巨匠と言えば、冗談にもならない。現職の民主党大統領に共和党候補が挑む。ハリケーンの暴風雨のために、昨日予定だった共和党大統領候補の指名会議が延長された。現時点の支持調査によると、ミット・ロムニーとバラック・オバマの以下の数字が上がっている。億万長者ロムニーが2.5%差でオバマを追撃する
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あるご婦人いわく:片方はモスリムだし、新人はモルモンだし、どっちも私の宗旨に合わないわね。困るけれど、どちらか選ぶなら、やはり立派なユナイティッド・ステイツ・オブ・アメリカの伝統的保守に育つ可能性のあるロムニーなのね!

宗教を大事な判断根拠にするアメリカ市民は多い。古色に染まったカトリック福音主義のさまざまな宗派が競い合っている。モルモンと言うのはジョセフ・スミス・ジュニア―によるキリスト教新興宗教である。セクト的な教条はローマのそれよりも頑迷と言われる。だとすると、日本仏教界における創価学会や霊友会と言った宗教団体に例えることが出来よう。既に2世紀に近いから、創価学会と比較にならない歴史と固有な教義を持つ大宗教組織であるそうな。知人のエドがかつてユタ州ソルトレイクの街にある本部に行った。神々しいスミスの場面ごとの肖像画がかかり、壮厳な音楽が流れ、この世と思われない風景が3D最新技術で展開され、まさしく神の国にいるような体験をしたそうだ。

教会とはそうあるべきなのだ。宗教が起こって以来、左様なコンセプトが常に用いられてきたのが事実だ。欧州のイエスキリスト教会から、それ故に偉大な絵画/彫刻/建築/音楽が生れてきた。芸術の大部分は宗教に負ってきたのである。今のベルギー連邦の北側半分、フラームスの二人の絵画にもその典型を見ることが出来る。

伝統的な芸術作品は宗教的である故に、所持者を変え、戦争に翻弄され、時にばらばらにされ消失し、戦火に焼失した。運がついて、世紀を生きながらえた二つの作品について書こう。作品2つの主題がキリスト教そのもので、それらが成立以来、部分ごとに場所を変えたり紆余曲折の運命を辿る。一つは再び三度もとの姿に統合され今日に至った例である。

十字架から降ろされるキリスト神の子羊この2つをフラーデレンの誉と言って良い。現在、前者はスペイン首都マドリッドの国立美術館プラド―にかかり(補足1)、後者はそもそものゆかりフラーンデレン都市フェント、シント・バーフス・カテドラルにある。前者を正確に語るのは難しい。見学``拝観``したのがずいぶん昔だから…。後者との対面は下部5枚の背景に描かれた木々の細部がまだ焼き付いている。

いずれも15世紀欧州の宗教観の逸物。二人の画家は今から言えば、小国ベルギー連邦の北部に属する同時代人*(補足2)。オランダ方言を話す小さな地域から、当時の欧州絵画のトップ二人がでているのだ。色彩技術の先進性と主題素材の構成展開に於いて、時代を抜いている。

「十字架…」画家はブリュッセル近郊のドールニックと言う小村生まれで、フランス語風な苗字De le Pastureを名乗った。のち広大なブルゴーニュ公国(と言えど人口希薄なのどかな土地)の主フィリップ公お抱えになってVan der Weyden とオランダ語翻訳風に言い換える。「子羊…」画家van Eyck(ファン・アイク)兄弟、特にヤンはブルッフェ(フランス風ブルージュが日本で知られる)で生涯の大部分を過ごす。

Kruisafneming door Rogier de le Pasture' in Prado Madrid 細部描写に多くの写実的不可思議…と言うか超現実が見られる。例えば槍に突かれた右腹部と右手甲傷口2箇所の描写。紅い唇にも見える。
     Vraanderen meesters 01

Het Lam God in De Sint-Baafskathedraal in Gent  巾335㎝ 高さ229cm 下段5組に左右に広がって異なる樹木が精密に描かれている。当時の地中海近辺の樹種と思われ、ファン・アイク兄弟が何処から資料を得たのか興味深い。仔細に検討すればオリーブや傘松等を特定できるだろう。

上作品の画面左下。産みの親であるマリアが息子の死に直面して、悲しみのあまり朦朧となり倒れる情景。青い衣服が聖母マリアその人であることを示す。彼女を支える3名の人物の腕が`韻を踏む`ように一体感を醸している。
聖なる母がそんじょそこらのおなごのように気絶してはいけない…と思うのだが。異常な事態を目撃して意識を失うのは20世紀良きアメリカ婦人のマナーになった。それは聖母マリアの先例に習っているのかもしれない。

十字架の部分が凸状に突き出ている。変化形が多くあるが、当時の祭壇額縁の基本形。原型は中世住宅建築の正面の姿と思われる。その形が窓覆いに繰り返される。ガラス入りの窓枠を守る言わば雨戸であって、強靭に作られた扉でもある。スワと言う時の敵を防ぐ役目を兼ねられる。低い土地の煉瓦作りの古い建築に普通に見られ、外観上の装飾機能を持っているのは言うまでもない。

Rogier(ロフィール)のパネルは巾262㎝ 高さ220㎝の平面一枚だが、これほどのサイズでなくても、たいていの祭壇額は複数の折り畳みになっている。ドリー・ラウクと呼ぶ左右に開く鎧雨戸と相似形の形が基本になっている。左右2枚と窓そのものとで、計3枚構成になる。ドリー・ラウクの代表はやはりフェントの素晴らしい教会にある。Gentはラウク即ち折り畳みタブローのメッカなのだ。

マリアの背後に立つ草色の衣服の女性は(キリストの妻と私にも解される)マリア・マグダレーナだろう。愛する人への深い悲しみを読み取る事出来る。小さなブログ画像から無理だが、実物いずれも等身大に近く、細部描写を鑑賞できる(単または双眼鏡をお持ちになるように)。

死亡したキリストを除き、10名の人物が描かれ、それぞれが明確な意味を持って登場している。神の子を支える二人の僧は知名な僧なのだろう。十字架の後ろで一見遊んでいるような少年が奇妙な印象をあたえる。やや濃い皮膚で顔立ちも何となく異なる…。ブリティッシュ・ミュージアム(英博物館)専門家の若い女性の解説を少し前に聞いたのだが、もう忘れている(思い出せば修正/補足しよう)。一つだけ覚えている点は僧服の細部表現。織り込まれた生地蝕感の写実について。当時の織物産業の興隆とその技術が分るそうな…。

下の作品はHubertとJan兄弟によって、1432年完成とされる。フラームス語彙の題名をどう他言語に移しているか知らない。「神への生贄」も可能だろう。ローフィールの絵も、単なる「十字架から降ろす図」でも通る。

「子羊…」絵は祭壇画ラウクとして著しい大作。王侯の願う宗教主題を考証研究して、物語りイメージを作り組み合わせ、複数の構成部分を、折り畳み時と開いた時との裏表二つのスぺクタルにしつつ、それらを総合する想像を絶する作業である。こわざもおおわざも必要になる。優れた軍配を振る棟梁がいて、平らな樹木パネル作りの大工師がいて、蝶番作りの鍛冶屋がいて(補足3)、、、ざっと考えても大プロジェクトである。

    Vraanderen meesters 01-2 Jan van Eyk dichte
1枚目の下作品の左右を閉じると、この姿になる。中央上部のほぼ半円に収まっている部分が左右に開かれると、隣の半円から連続して次の半円(実際は4分の1)に成るかのようにデザインされている。
下段:羊を抱く洗礼者と福音書著者の二人のヨハネス。外側に祭壇画のスポンサー夫妻ヨースとリスベット。当時の大変な資産家で敬虔な信者をきちんと顕彰しているわけだ。中段::天使の羽で分かるように大天使ガブリエル。右に描かれている聖母マリアに、受胎を告知するのがガブリエル。愛称ギャビーと言う女の子は多い。上段:マリアの上はミシャ、ガブリエルの上はマリアの親戚ザカリアス、いずれも預言者である。


2つの絵は現在の洋画材・キャンバス布地に描かれているのではない。木を薄く切ったパネルで、恐らく楢材。フラーンデレン(英語フランダース)の言葉でアイク(複数アイケン)と言う。偶然だが、画家の苗字はこの樹木名由来である。ドングリを成らせる広葉落葉樹で、欧州樹木の王者と見なされ、世紀を経て大木に育つ。「子羊…」の場合6世紀を経過し、この色彩と艶だから、持久性に優れるクォリティーと言わねばならない。



[続く]


[補足] 
1. フェリーペ2世(日の沈まぬ西班牙帝国の王。エリザベス1世に挑み海戦で敗れた。王の常道、芸術を愛し、欧州中の絵画を集める。支配地フラーデレンのレ―ヴェン教会礼拝堂のために製作されたが、ブルゴーニュ公の子孫フェリーペによって本国の首都に運ばれた。参照→エリザベス1世:2011年7月22日「私はか弱き一介の女にすぎないが、心は王の強靭さで満ちている」
2. 同じ言葉を話した突然変異的な鬼才ヒエロニムス・ボッスJheronimus Boschは彼ら二人より半世紀ばかり後になる。参照→'s-Hertogenbosch 2011年10月4日と5日。
3. . 王の注文であれば、街一番の鍛冶匠が細工蝶番を作り上げただろう。シュミット/スミスの分業専科に、戦馬と農耕馬の蹄鉄作りと並び、折り畳みラウク用の蝶番作りがあった。欧州の蝶番史の成果として、例えばドイツ圏住宅に見られる上下左右に自由に閉開出来る仕掛けヒンジをあげたい。
3.
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ken minatoya

Author:ken minatoya
Victor Westhoff(1916-2001)碑文Hij observeertからのHNを本名と苗字に先立つ屋号に変更。ウエストホフは生物フローラの相互生息環境を丹念に観察したBiotop概念の先駆者。ザザーッとフィールドを歩きつつ、こぼれ見える外史/雑人/雑草の風景

日本語→英語自動翻訳【星条旗】
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