ライン・ワール・マースの狭間から、草の如し徒然の観察八景。 政ごと/商いごと/言の葉ごと/遊びごと。

Nature 雑草 フローラ/ファウナ

しがない旅烏でござんす "mushroom mafia"

森の仏壇;
と言い難い。怪獣のような表情…。横文字を一応示しつつも、この仲間と解していただきたい。生木ブナ[補註1
]に出る`多年生`茸。食用にならぬが乾燥させ、冬のストーブ火付に用いられた。巾55㎝個体は過剰寸法。階段状に重なって出現する例が多く、上の個体から黒い胞子が下の個体に落ち、それぞれの上部(屋根)が黒く染まって見えるのだと言う。Platte Tonderzwam achtig bij Beuk 01

1955年前後、ポーランドの寒村で悲劇が起こった。子供のある数家族を含む村人たち20名以上が亡くなった事件。毎年くりかえす茸狩りを二週間前に行なっていた。伝統の言い伝えと生活の知恵を知る老人たちも犠牲者だった。見間違いが起ったのである。若い世代の収穫を老人たちは信用して、確認しなかったのかもしれない。あるいは成人すら、たまたまその年に植生域を拡大したソックリ猛毒茸に騙されたのかもしれない。古い諺や地域食習慣は茸鑑定の信頼性と無関係である。このルールは専門家に知られていても、昔からの地域社会の人々に伝わり難い。ポーランドのドラマ以来、各国で防止対策が取られ、啓蒙活動が盛んになった。

Amanita Vliegenzwam 紅天狗茸 のコピー
本種は地球上あまねく棲息する。お伽話`白雪姫`や`森の小人たち`物語に常に出てくる茸の代表。紅天狗茸(ベニテングタケ)と和名で言うらしい。昔は猛毒と言われていた。紅い色味が如何にも毒キノコに思われ、派手で鮮やかな色の茸は毒キノコと言う警鐘役を果たしていたようだ。ところが猛毒茸は目立たない茶色系統に多い毒学事実が明らかになってきた。一方ベニテングタケに熱処理をすると、食用可と言う実験的体験が報告されているらしい[補註2]。
下画像は任意に寄せ集めたマッシュルームたち。死に至る茸があるかもしれない。既に知名な毒キノコ(の成長変異過程のある段階)に非常に似ている場合、その自生植生域と自生環境を考慮しなければならない。他大陸や異なる自生状況に育つ毒キノコ胞子が突然、私のフィールドに舞い降りることはありえないのだ。
Kinoko Paddenstoel cor 000


「しがない旅烏でござんす」主役のキノコ。サングラスを掛ける個体は高さ40cm、成人眼鏡巾より広い傘を持つ`巨体`。傘部分と柄(軸)とが分離しやすいキノコタイプだが、ある程度そだつと傘の重さと何かの弾みで柄が折れやすい。右上個体の傘はリング(つば)によって辛うじて繋がり、旅烏風情を連想する。`大きなパラソル`の代表種で、傘の開かぬ若い個体が美味であるとされる。しかしサングラス賭けほどの分厚い傘`肉`も薬味次第で血の滴るようなビーフ並みのグルメになり得る…。
Kinoko Grote Parasolzwam cor 01


マッシュルーム・マフィアとは食用茸狩りを専門にする`狩人`。欧州一般に、大量採取の商いは禁止されているために、マフィアなのだ。キノコ種の鑑識眼を持つ人々で数時間で数十㎏を収穫すると言われる。キノコグルメ`旗艦`種はイタリア語ポルチノで知られるマッシュルーム。和名ヤマドリダケ、日本列島にも自生する。欧州ほどスター的でないのは、マッタケと言う日本の王者があり、更に消費量1を誇るシイタケがあるからだろう。シイタケは日本出のキノコとして30年ほど前に欧州初栽培が成功。この10年マッシュルーム・ブームによって、海外導入種の代表としてスーパーマーケットに並んでいる。

ポルチノ名が知られるのはイタリア料理との絡みである。シャンピニオン/カンテレル/シイタケ/シメジなど[補註3]スライスと共にパスタ料理に用いられる。ポーランド人マリスカと茸談義をして、ポルチノのポーランド名Borowik szlachetny(ポロウィック・スツラッチェトニ…)を教えてもらう。「秋になると皆が森に入るの!ポーランド人はキノコ通よ」彼女のキノコ話はなるほど面白い。

ポロウィック・スツラッチェトニの前部はBoletusのポーランド語形、後部はedulisすなわち「食べられる」になる。マリスカによると同属の赤い色味(の一つは毒キノコだが)などを含め、ドォーッと集めるのが秋の行事になっているそうだ。隣のロシアと並ぶ秋の国民生活風景であると言う。寒い土地のプロテイン/ミネラルなどの欠かせない補給源。この両国にフィンランドを加えると、キノコ狩りの御三家だと言われる。
Porcino Eekhoorntjesbrood cor 01

オランダはシャンピニオンの工場大量生産方式に貢献している。夏/冬楢床のシイタケ栽培も初めているので、ポロウィック・スツラッチェトニ栽培も軌道に乗せているかもしれない。オランダに自生するので「リスのパン」と言う可愛い名前がある。この茸を見つけると、しばしばい小動物のカジリ痕が残っている。森ネズミやリスの食糧源なのだ。ヤマドリダケは`山獲り`よりも`山鳥`だろうか。もしそうなら`リスのパン`と同じ発想になる。

フィンランド/ロシア/ポーランドの伝統キノコ狩り国家に、野菜に乏しい北欧を加えることが出来る。北欧で年間1㌶単位、200~300㎏の収穫があると言われる。その10倍収穫量を誇る地方もある、そして殆どは乾燥手続きを経て市場に出る。ポーランド10万人が山野に入るならば、年間1万トンを優に超える収穫量になろう。人々は自家消費のために森に入る、とマリスカは言っていたが、それだけの量ならばやはり市場に出ていると思われる。

9月初めからドイツ各州の森林管理局(≒森林官=森の番人)は今年も忙しい。籠を腕に下げた家族キノコ狩りはOKだが、ワーゲン‣ヴァンを駆って数時間で数十㎏を収穫して走り去るマフィア・グループを取り締まらなければならないからだ。ドイツ連邦全域に於いて、御三家のようにキノコ狩りが人気を得て、専門マフィアが何時から出没するようになったか? 自家消費の代りに商いとしての採取活動。多分、外食する余裕が出てきた経済成長期、すなわち1960年代と思われる。

マフィアは国有林[補註4]内部に臨時に設定される立ち入り禁止区域を無視して獲り/盗りまくる。禁止理由の特定ファウナやフローラ保護、あるいは植樹実験に大いなるマイナスになる。ドイツ森の番人は警察官に等しい権限を持ち、マフィアを現行犯逮捕できる。広域範囲で活動する素性を明かさずぬ連中がいて、`連邦`警察との連携がますます必要だそうだ。

こんなキノコを見た方は少ないかもしれない。波打つような傘の縁。屋根の中央に散らばる模様と周囲のささくれ状パターンから一種のパラソル(傘)マッシュルームか、または片側に育つ無柄キノコかと思う。直径10㎝以上で、傘をいっぱいに広げた段階。写真だけなら、迫力と同時に気味悪いと感じる人がいるかも知れないが、何とこれは…(補註末ご覧あれ)
Kinoko Shiitake 005-6


傘を持たない茸タイプは多い。するとヒダも柄も不必要になる。このタイプは風船状の内部に(たいてい)黒い粉(胞子)を生成して、熟すと穴/裂け目から胞子を吹き出す。放牧地/草原に時々見られる一つの仲間は50㎝を超えるソフトな塊である。胞子生成以前の状態が食用になる種がかなりある。Cの若い個体は外観も内部も均質で、シャンピニオンを柔らかくしたような食感である。
3 types of browing the spores 01


草木にビオトープを形成する仲間が存在するように、菌類の茸にも互いの植生連携関係があるように思われる。普段の森歩きで、束になって出る小型茸の幾つかが互いにまじりあっているとか、カーテン型A種が見つかると近くにミルク型B種が見つかる(いずれも和名があいにく不明)と言うような経験をする。さらに樹木種と茸種との密接な関係が存在する。言い替えると、どんな茸が出て来るかは草木と湿度や土壌形質(針葉/広葉の堆積葉違い)に左右される。特定樹木と特定茸との関係は昆虫とその食用樹との関係と同じである。

下のコラージュは身近に観察した例。左の樹木は10年前に森を貫く廃線路(樹木の無い開口部)に実生している幼木であった。欧州種と日本種との交雑種と観ていたが、5年ほど経過して付いた球果の状態と、やや安定してきた葉色や短枝に付く束生葉寸法から、100%では無いがかなりの日本純潔カラマツに近いと思われるようになった。その頃すでに浅い地下(30㎝ほど)を走る根を芝生全体に広がらせていた。
Gele Ringboleet cor 03
130923 Yellow slippery jack nursery quarter

昨年はじめて、明るい栗色の小さな茸が出現した。刈り取らず、観察を継続。数ヵ月をかけ、15個体ほどが出てきた。1センチほどで芝から顔をだし、もっとも大きい個体は高さ10㎝、直径20センチを超えた。のんびりと育ったのは2013年寒冷に比べ夏らしい気温が続いたためと思われる。

今年2m四方の同じ場所から出てきた。囲いをして観察を続け、やがてカラマツと関わる「黄色+リングのボレート」と言う正体がわかった。この地域のフローラ本によると、珍しい種で保護対象になっているらしい。森でそれらしき候補を見た事がある。その画像を見直すと、環境/背景が違うので同じに思えない。森の暗い地面ではもっと黄色が目立つ。当の唐松造林区域に全く見つからなかったが、隣り合わせのブナとナラ域に生えていた。

北半球広く分布し、ハナイグチ(=花猪口)と言う和名と判明。森から偶然、庭に移しかえたカラマツが日本種だった。その根っこ網に発生した菌糸が成長して、8月初めに芝の間に顔を出した。樹木と茸との密接な関係が初めて立証されたのは19世紀半ばらしい。スエーデンの研究者(確かtasiElias Fries)が本種を対象にカラマツとの`共生`メカニズムを解明した。彼は茸学先達の一人である。

特別な環境でない森に近い只の住宅区、その小さな庭にたまたまカラマツを私が植えていた。すると当然`花猪口`が出てくる可能性が考えられる。事実、今年も出てきた。来年も出てくるだろう。逆に言うと解明者E・Fは最も頻繁に出現する典型例を観察して解明したに過ぎないのだ。非常に珍しい例に遭遇して科学的発見をしたのではない。科学的真実の発見とは左様な手続きと思われる。初めて見つける人が出なければならない。また偶然、複数の人が互いに無関係に同事実を発見する場合があるのも、これゆえである。

本種は日本列島で茸狩りす同胞の人気茸であるそうだ。味に関して、色々な評価があるようだ。ドイツ連邦で本種を採ると違法になる。オランダ/ベルギーで採る人はいないだろう。雨模様だとヌメリ感が強く、食欲を誘わない。ポーランドならば、根こそぎ獲られるのではないだろうか。これは安心して収穫して良いのだ。ポーランドにウォズニアキ姓が多く、`オズの魔法使い`を私は勝手に連想する。20世紀初めに創作されたオズの魔法使いがポーランドの茸狩りに関わっていれば、かの悲劇は避けられれたかもしれない。

大量犠牲者の犯人キノコはCortinarius属のLeprocybe節の一つorellanusだった。その毒は摂取後10日ほど経て、内臓細胞を破壊して、人命を奪う仕掛けを持っている。Leprocybe節の外観は目立たぬ茶色の中型茸で、いかにも食用向きの印象を与えるが、ほぼすべて強い毒性を持っている。あいにく知らない和名の代わりに英語彙で二つの代表を挙げる;Fool's webcap((Cortinarius orellanus)とDeadly webcap (C.rubellus){補注5}。前者のフールな蜘蛛茸がポーランド村民をやった犯人である。後者も通称名の通り摂取者を死にいたらしめるそうだ。


[補註] ;
1.生きている樹木。枯死した樹のみに出るキノコ、生木/死木を問わないキノコ、両例がある。

2.毒キノコか否か? 毒化学成分は、食した人間に発生した中毒症状の原因物質として認定される。神経を犯したり、消化器官細胞を破戒したりする物質は犠牲者が出てから解明される。動植物の、言い替えれば自然界の毒は犠牲になる対象`自然`によって、科学的に明らかにされるしかないのである。ある茸に毒があるかどうか? それは人間が食べてみることによって初めて分るのだ。

3.シャンピニオンは欧州初の栽培茸。野生種の改良から発展、フランス首都近郊から始まり欧州→北米→世界に普及。白/茶を初め寸法違いを含めかなりの品種数がある。欧米に於ける最大消費キノコ。生で食べられる稀な種でもある。黄色のカンテレルは森のキノコ狩り人気種から栽培化されている一つ種。後者二つは日本出の普段の人気種。支那食品店の乾燥シイタケは、山野の自然品と思われるが、現在もそうだろうか? 支那からの大小サイズの生シイタケと白/茶の生シメジがシャンピニオンと並んで欧州市場を席巻しつつあるように思われる。それらフレッシュと共にドライの薄切り商品もスーパーマーケット品揃えの定番。

4.ライッヒワルト(Reichswald)はかつての`皇帝の森`を起源にする16地方政府管轄の公有林である。例えば5千㌶の広大なReichswaldがノールトライン-ウェストファーレン州にある。15世紀初めから今日までの歴史をもち、ナイメーフェン/クサンテン/ゴッホ域内に広がっている。秋の9月から10月半ばまで、自然のマッシュルーム愛好家にちらほら遭遇する。幾つかある有名な大規模国有林以外に、用材生産林/リクリエーションの無数の森林があり、例えば大都市ミューヘンに近い森だと、キノコ狩りで賑わうそうである。つまりフォルクスワーゲンのヴァンもすこぶる出没回数を重ねる分け。

5. Webは蜘蛛の巣状の保護幕を言う。幼茸時に生成され、成茸になると傘縁にWeb残滓を残したり、柄に付くリング状に変成する。Capの`傘`と`蜘蛛の巣`の熟語で一つの茸タイプを示している。英語で`クモカサ`茸は蘭語で`カーテン`と形容する。蜘蛛の巣を蘭人は薄いカーテンに見立てている分け。これら猛毒二つの自生記録は私の地域観察本に無い。
最近、難民申請者が滞在施設のある森で見つけた茸を食し、家族8名が病院収容される事件が起きた。子供は重症と言う。普通の市販白いマッシュルームそっくりだったのが理由。黄色コブ茸(Amanita citrina)の幼い出立と思われる。両者は採取後のヒダが灰色になるか、白のままで変化しないかで見分けられる。茸知識が全くない人たちらしく、空腹だったのかもしれない。

** 茶色の傘の茸は栽培シイタケ。ドリルで開けた十数ヶ所の穴に菌糸を入れた50㎝長の樹。15ユーロだったが、気温のタイミングが肝心に思われる。初めの冷温刺激を上手にしないと、数個の収穫に留まる。菌床樹種はナツナラ。普通この状態まで放っておくことは無い。数㌢高の幼いシイタケパックが市販され人気がある。料理がっても良い。出荷期間が短かく、生産効率が上がり一石二鳥だ。

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ken minatoya

Author:ken minatoya
Victor Westhoff(1916-2001)碑文Hij observeertからのHNを本名と苗字に先立つ屋号に変更。ウエストホフは生物フローラの相互生息環境を丹念に観察したBiotop概念の先駆者。ザザーッとフィールドを歩きつつ、こぼれ見える外史/雑人/雑草の風景

日本語→英語自動翻訳【星条旗】
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